人文科学府 言語・文学専攻 西洋文学 分野 独文学 専修 専修科目 (単位数 1) 選択科目 対象学年: 対象学部等: |
German Modern Literature (Specialized Lecture I)A
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科目ナンバリングコード: 講義コード: 2023 春クォータ 毎週 火曜1限 伊都イーストゾーン B101 教室 M/J科目 (日本語, German) |
授業の概要 |
ローマ皇帝ユリアヌス(331-363、在位361-363)は、伯父であるコンスタンティヌス一世のキリスト教公認後に異教の復興に努め、次第に「背教」の道を踏み出した最後の迫害帝です。新プラトン主義に傾倒した哲人皇帝でもありました。謎に満ちた生涯の中でも、ガリア平定後のペルシア遠征で敵方から受けた致命傷がもとで客死した際、イエスのことを意識して「ガリラヤ人よ、お前の勝ちだ」と叫んだと言われています。言うまでもなく、「背教者ユリアヌス」Julianus Apostata という命名はキリスト教の側からなされた賤称に他なりません。キリスト教史において背教者は古くから否定的に評価されてきました。 しかしながら、ルネサンス期以降は古典古代文化の擁護者、教権の批判者として次第に注目され、15世紀にはロレンツォ・デ・メディチ、17世紀にはイエズス会士、18世紀にはモンテスキュー、ヴォルテール、ギボンなどがユリアヌス再評価の機運を高めたのです。中でも19世紀のドイツにおいてユリアヌスに対する関心が高まります。また、ユリアヌスをめぐる言説に関しては、当時の危機的状況を映し出す鏡として古代末期を理解するアナロジー的思考が見られることも指摘しておかなければなりません。古代とキリスト教とゲルマンのそれぞれの伝統が混在する中で巨大な帝国が没落していく状況と19世紀の不安定な政治状況とが相関関係の中に置かれたのです。新たなユリアヌス受容の文学的嚆矢は、ユリアヌスものを19世紀にノヴェレの形式で唯一執筆したフリードリヒ・ド・ラ・モット・フケー(1777-1843)であり、同受容を文学的に結実させたのは、ユリアヌスものを19世紀に叙事詩の形式でほぼ唯一執筆したヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフ(1788-1857)でありました。 詰まるところ、古代から中世にかけて常に否定的に扱われてきた背教者は、ルネッサンスに至ると次第に見直しがはかられ、とりわけ19世紀前半のドイツにおいて背教者をいわばロマン主義者として見なす意識が高まり、そうした流れを受けて19世紀後半に北欧の劇作家イプセンが歴史劇『皇帝とガリラヤ人』(1873)を、ロシアの象徴主義者メレシコフスキーが小説『背教者ユリアヌス 神々の死』(1894)を世に問うたのです。20世紀になると再びドイツにおいてユリアヌスがカール・シュミットの『政治的ロマン主義』第二版(1925)において「革命的な政治的ロマン主義者」として論述されるに至り、更に第一次世界大戦以前の日本ではユリアヌス像が雑誌『第三帝国』を通じて当時の政治的イデオロギーと、それもデモクラシーを肯定し植民地主義に否定的なイデオロギーと結びついたのでした。 本講義は三部構成で行う予定です。導入部にあたる第一部では辻邦生の小説『背教者ユリアヌス』(1972)を考察の中心に据えて古代から現代に至る背教者ユリアヌス像を追い、ドイツ・ロマン派を扱う第二部ではフケーの散文作品『皇帝ユリアヌスと騎士たちの物語』(1818)とアイヒェンドルフの叙事詩「ユリアーン」(1853)を具体的に検討し、その後の展開を検証する第三部ではロシアや日本やドイツにおける新たなユリアヌス受容を考察します。 (Vorlesung über Julianus Apostata ) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
キーワード : 背教者ユリアヌス、フケー、アイヒェンドルフ、メレシコフスキー、辻邦生 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
履修条件 : 履修に必要な知識・能力 : | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
特記事項 |
基本的に講義形式の授業です。但し、授業中に何度か書いてもらうレスポンスペーパーを通じて、授業が一方通行にならないように努めます。状況に応じてオンライン(TeamsとMoodleを使用)も併用しますので、Moodle にて適宜ご確認ください。
教職 : 資格 : | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
到達目標 |
九州大学人文科学府歴史空間論専攻ディプロマ・ポリシー 九州大学人文科学府言語・文学専攻ディプロマ・ポリシー 九州大学文学部哲学コース・カリキュラムマップ 九州大学文学部歴史学コース・カリキュラムマップ 九州大学文学部文学コース・カリキュラムマップ 九州大学文学部人間科学コース・カリキュラムマップ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
授業方法 |
テキスト : <教科書>フケー『皇帝ユリアヌスと騎士たちの物語』(小黒康正訳、同学社、2023年5月刊行予定) 参考書 : <参考図書>授業中に指示する。 授業資料 : 授業計画 (授業計画は予定であり、学びの進捗に合わせて変更することがあります。)
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成績評価 |
GPA評価
成績評価基準に関わる補足事項 : | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
学習相談 |
学習相談 : 本授業の終了後、ならびにオフィスアワー(火曜3限)にて相談に応じる。 授業以外での学習に当たって : 合理的配慮について : 障害(難病・慢性疾患含む)があり、通常の方法による授業を受けることが困難な場合には、教育目的の本質的な変更など過重な負担を伴わない限り、合理的配慮を受けることができます。合理的配慮とは、教授・学習法の変更、成績評価の方法の変更、授業情報の保障(資料の字幕化、個別の資料配布、録音・撮影の許可)、受講環境の調整などを指します。実際の方法については担当教員と建設的対話を行なった上で決定されます。 <相談窓口> キャンパスライフ・健康支援センター インクルージョン支援推進室(伊都地区センター1号館1階) (電話:092-802-5859 E-mail:inclusion@chc.kyushu-u.ac.jp) |