仏文学研究室
他者と出会い、自分を知る 異邦への旅
歴史は鏡であるとは、よく知られた言葉ですが、その意味を本当に分かるには多くの書物や史料にあたり、歴史に推参する労が必要でしょう。いにしえの人々の暮らしを知り、考え方や感情の機微について丹念に思いを凝らすことが、なににもまして大切なはずです。 異文化についても事は同じではないでしょうか。ネット検索は確かに便利ですが、ひとつの言語に習熟し、人々の生活から生まれた表現の数々に時間をかけて親しみながら、想像力を駆使して多様な相違に対する感受性を鍛えなければ、 歴史や文化を異にする他者を深く理解することは叶わないでしょう。文学作品が私たちに開く世界もまた、そうした遭遇を可能にする豊穣な大海にほかならず、人間という存在をめぐり思索を深めてきた作家たちの著作を読み進むうち、私たちは知らず知らずに自らの省察へと導かれるはずです。その意味では、他者を知ることは、じつは自分自身を知ることと異なりません。当研究室が仏語原典の厳密な読解をなによりも重視する理由は、もはや説明するまでもないでしょう。もちろん実用的な語学力の向上にも力を注いでおり、フランス人教師が周到にメニューを組んだ語学演習を開講しています。その成果は、仏語検定試験上級合格者の輩出という実績だけでなく、毎年2、3名の学部生が本学の交換留学プログラムによりボルドー大学やエクス=マルセイユ大学に留学するという形で現れています。そのなかにはフランス文化への探究心が高じて、外務省の専門職員になった強者もいるほどです。もちろん大学院の門戸を叩く者も動機は同じでしょう。院生たちは学部時代に出会った作家や作品についての考究を深めるために、修士課程では実証的な研究方法を身につけ、専門領域の研究史を体系的に学び、学術論文の執筆技術を実践的に習得します。さらに博士後期課程では留学により本場の学問的環境を経験しつつ、フランス本国の専門家に伍して研究を進める力を涵養するのです。このように仏文学研究室では、皆さんの先輩たちがフランスとの出会いを通じて自らをよく省み、自らに問いかけ、様々な形で自らの力を試し、鍛えています。
教員
髙木 信宏 (TAKAKI Nobuhiro) 仏文学講座/教授
- 専門
フランス文学(19世紀) - 専門分野
スタンダールの小説作品を対象として、テクスト成立の背景となる政治体制や価値観の変遷などと関連づけつつ多角的な観点から研究をつづけています。また、その文学の受容にも関心があり、バルザックやポール・ヴァレリー、小林秀雄などがスタンダールを論じることで、いかなる批評的な意義を提示したのかについても考証しています。 - 主要業績
『スタンダール—小説の創造』(慶應義塾大学出版会, 2008).
«Valéry et "Lucien Leuwen"» ( HB. Revue internationale d'études stendhaliennes, no 24, 2020)
«Texte et correction : une remarque sur le caractère de Mme de Rénal» (HB. Revue internationale d'études stendhaliennes, no 23, 2020)
« Mitty, Valéry et "Lucien Leuwen"» (HB, Revue internationale d'études stendhaliennes, No 22, 2018)
宮崎 海子 (Miyazaki Kaiko) 仏文学講座/准教授
- 専門
フランス文学(20世紀) - 専門分野
「歴史と文学」の観点を大枠とし、特に第二次世界大戦(ドイツ占領下の対独協力、レジスタンス、強制・絶滅収容所、ユダヤ人大虐殺)の記憶が文学作品においてどのような手法や文体で表現されてきたか、またその表象や表現方法がどのように変遷してきたかをフランス社会(や左派インテリ層)における思想史や記憶の変遷の歴史に照らし合わせて考察しています。具体的にはヴェルコール、デュラス、ペレック、パシェ等の作品群を中心に研究していますが、バックグラウンドとしてはナチス収容所の証言文学(アンテルム、ヴィーゼル、プリモ・レヴィ等)も人間理解への熱意をもって読み続けています。 - 主要業績
« Abahn Sabana David, ou l’initiation du processus de judaïsation dans l’œuvre de Marguerite Duras » (Textuel, no 67, 2012)
« Duras et le génocide juif »(Les Lectures de Marguerite Duras, PUL, 2005)
« Les parias des houillères du Chikuhō : assimilation ou surdiscrimination ? »(Cipango, no 23, 2020)
菅野賢治/合田正人監修、小幡谷友二/高橋博美/宮崎海子訳、Léon Poliakov編著『反ユダヤ主義の歴史』第五巻(筑摩書房、2007)
シャルレーヌ・クロンツ (CLONTS, Charlène) 仏文学講座/准教授(特定プロジェクト教員)
- 専門
フランス文学(20世紀) - 専門分野
現代文学、とりわけ現代詩の方法論について研究しています。近年ではルーマニア出身の20世紀フランスの詩人ゲラシム・ルカの作品をとりあげ、ピクトポエジーとオントフォニーの観点から詩の分析と解釈をおこなっています。またルカが加わっていたシュルレアリスムの芸術と活動についても文学史的・実証的な調査をつづけています。 - 主要業績
Gherasim Luca : texte, image, son ( Peter Lang, coll. « Modern French Identities », 2020)
Origami, le pli dans les littératures et les arts (Revue des Littératures et des Arts, n° 22, 2021)
« Wifredo Lam et Gherasim Luca : Apostroph’apocalypse » (Wilfredo Lam, 2021)
« Répétitions et variations dans les listes vi-lisibles de Michèle Métail » (Formes poétiques contemporaines, 15, 2020)